大阪地方裁判所 昭和44年(行ウ)71号 判決 1970年2月25日
原告 中川浅治郎
被告 南税務署長 外一名
訴訟代理人 下村浩蔵 外四名
主文
本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
(原告)
被告南税務署長が昭和四二年九月一四日になした原告の昭和四〇年度分所得税の総所得金額を金一、四二六、九八三円と更正した処分のうち金三六〇、〇〇〇円を超える部分、昭和四一年度分所得税の総所得金額を金一、二六六、一六〇円と更正した処分のうち金三二五、三〇〇円を超える部分はこれを取消す。
被告大阪国税局長が昭和四四年四月一〇日になした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を金一、〇六六、八九四円と一部修正した処分のうち金三六〇、〇〇〇円を超える部分、昭和四一年度分所得税の総所得金額を金一、一八一、八四四円と一部修正した処分のうち金三二五、三〇〇円を超える部分はこれを取消す。
訴訟費用は被告等の負担とする。
との判決。
(被告等)
主文と同旨の判決
第二主張
請求原因
一、原告は住所地において喫茶店を営んでいる。
二、原告は昭和四〇年度、四一年度の所得税の確定申告として、被告南税務署長に対して白色申告により控除失格による無申告の申告をしたところ、右被告は原告の昭和四〇年度、昭和四一年度所得額をそれぞれ別紙<省略>の通りに更正する処分を行ない、その旨原告に通知した。
三、ところで、右更正決定書には、その理由として「営業所得について調査の結果無申告のため決定します。」とのみしか付記されておらず、かつ、原告としては前記確定申告は自主的に公正な申告をなしたものであるから、原告は昭和四二年一〇月一二日、右更正決定は違法かつ不当であるとして右被告に対し異議申立をなした。
四、これに対して被告南税務署長は昭和四三年一月一二日「原告の異議申立を棄却する。」との決定をなし、同日原告に通知した。
五、右異議申立棄却決定の理由は充分明白でなく、かつ、原告としては否認される事由もなかつたので、原告は昭和四三年二月一二日、被告大阪国税局長に対し審査請求の申立をなした。
六、被告大阪国税局長は原告の右審査請求に対して、これを長期間放置した後、昭和四四年四月一〇日に至り「原処分の一部を取消す。」との裁決をなし、昭和四〇年度分更正額を金一、〇六六、八九四円、昭和四一年度分更正額を金一、一八一、八四四円とそれぞれ一部修正し、昭和四四年四月一四日原告に裁決書を送達した。
七、しかしながら、原音の昭和四〇年度中の総所得金額は営業所得が金三六〇、〇〇〇円、昭和四一年度中の総所得金頭は営業所得歩金三二五、三〇〇円であり、被告大阪国税局長の前記処分は、右原告の申告額を超える部分について所得を過大に認定した違法がある。
八、さらに、被告大阪圏税局長は右一部取消処分の理由を充分明らかにしていない。これは不服審査制度における争点主義に違反するものである。
九、よつて、前記の通りの判決を求める。
本案前の抗弁に対する答弁
原告が昭和四四年四月一四日に審査裁決書を受領したことは認めるが、右裁決書には行政訴訟の出訴期間について教示がなされていなかつたから、出訴期間が経過したことを知らずになした原告の本件訴の提起は適法である。
(被告等)
本案前の抗弁
原告は、被告大阪国税局長の審査裁決書が昭和四四年四月一四日に送達されているにもかかわらず、右送達の日から三カ月を経過した後に本件訴を提起したものであるかも、本件訴は行政事件訴訟法第一四条に違反する不適法なものである
第三証拠関係<省略>
理由
職権をもつて調査するに、被告大阪国税局長の審査裁決書が昭和四四年四月一四日原告に送達されたこと、本件訴が右期日より三ヵ月間の出訴期間(行政事件訴訟法第一四条第一項、第四項)を徒過した後の昭和四四年七月二三日に提起されたことが本件記録に徴し明らかである。
原告は審査裁決書に行政訴訟の出訴期間についての教示がなされていなかつたから本件訴の提起が適法である旨主張するけれども、いわゆる教示制度は行政不服申立制度の円滑なる活用を図るために設けられたもので(行政不服審査法第五七条、第五八条、第一八条、第一九条、第二〇条、第四六条)、行政不服申立制度とは別に独立して存在する行政事件訴訟の管轄裁判所や出訴期間等の教示の如きは本件教示制度において意図されておらず、それらは行政事件訴訟に関する手続法として行政事件訴訟法に明定されているところであるから、被告大阪国税局長には右出訴期間について原告に教示すべき法律上の義務はない。
よつて、本件訴はいずれも訴訟要件を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 井上三郎 藤井俊彦 小杉丈夫)